CT撮影していきますよ!それでは息吸って、止めてください!
あら、右大動脈弓やん!
楽にしてください!ってそんな撮影前からわかるの?
え?横で新人技師さんがみてる胸部単純X線画像で…
右大動脈弓の胸部単純X線(レントゲン)を!
こんな状況で気がついた「右大動脈弓」の症例です。案外、CT検査を大量にこなしていると気づかず撮影してるときがあります。
ゆっくりと供覧していきましょう!右に注釈入り画像を載せています。左には注釈なしの画像を載せています。まず、パット見て「奇静脈弓」が明らかに太い?位置がちょっと違う?というか縦隔腫瘍なのか?と気づきました。気管支も左に圧排されている感じです。
まずは画像をしっかり読み込んで情報を増やしていきましょう!よく見ると左側にあるはずの大動脈弓がありません。もう一度右肺に向かって膨隆している部分をみていきます。円形がはっきりと見えて、管状のものを輪切りでみているようにも見えます。そして、辺縁から下に向かって線が見えます。少しまとめてみると管の輪切りを見ているようで辺縁から下に向かって線が走っています。左にあれば普通に大動脈弓と下行大動脈だと想像がつきますが右側にあります。
思わずAP撮影とPA撮影を間違ったと「どきっ」としますよね?技師なら。慌てず画像を確認していきます。「内蔵逆位」なのか「画像処理間違え」なのかは心臓の位置だったり他の情報を総合的にみていくといいと思います。今回の症例では、心臓は正常の位置にあり、「右胸心」は否定できそう。そして、胃泡も左に見えています。つまり、「右大動脈弓」だでよさそうだ!
右大動脈弓の分類を考えよう!
では、これが「右大動脈弓」の分類でどれに当たるのか?ということを考えなくてはいけません。分類には、「Knight & Edwards の分類」というのがとく使われています。イラストで書くことができなかったので、論文より引用しました。
引用1:Knight L, Edwards JE: Right aortic arch. Types and associated cardiac anomalies. Circulation 50:1047-1051, 1974.
引用2:Edwards JE: Anomalies of the derivatives of the aortic arch system. Med Clin North Am 32:925-949, 1948.
簡単に解説していこうと思います。上段のタイプ(right aortic arch with retroesophageal aortic segment)は右にも左にも膨隆しそうな分類です。今回の胸部単純X線画像では右側に膨隆していたので除外ができそうな…胸部CTの時に位置関係を意識して見ていくことが大事そうですね!また、今回の症例は下行大動脈が右にあることより該当しないことがわかります。
下段のタイプは胸部大動脈が食道の後ろを通らない右大動脈弓のタイプで、下行大動脈は右を通っています。今回の症例に近い可能性があるということになるが、下段の3タイプより鑑別するには、胸部X線(レントゲン)の限界である。つまり、胸部CTを撮らなくては判断ができないということになる。もう少し下段について説明をしていこうと思います。
- 鏡面像タイプ(mirror image branching)(下段・左)
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正常の大動脈弓を反対にひっくり返したタイプになります。そして、大動脈弓の近位より左腕頭動脈、右総頸動脈(RCC)、右鎖骨下動脈(RS)と分岐していきます。
- 異所性左鎖骨下動脈タイプ(下段・中央)
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大動脈弓の近位より左総頸動脈(LCC)、右総頚動脈(RCC)、右鎖骨下動脈(RS)が出て、一番遠位に左鎖骨下動脈(LS)がでます。また、左鎖骨下動脈(LS)は食道の背側を通る。つまり、胸部CTでは、この左鎖骨下動脈(LS)を判断すればいいことになります。
- 左鎖骨下動脈分離タイプ(下段・右)
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異所性左鎖骨下動脈タイプと同様に左鎖骨下動脈(LS)を判断すればいいのだが、大動脈弓から分岐はせず、左動脈管を介して、肺動脈より分岐している。
鏡面像タイプや左鎖骨下動脈分離タイプは、Fallot四徴症(約25%で合併)、先天性心奇形(約80%で合併)がみられます。また、異所性左鎖骨下動脈は、先天性奇形の合併が少なく、偶発的に見つかることが多く、今回のケースも「異所性左鎖骨下動脈」の可能性が高いと思われます。あとは、今回挙げた「下段のタイプ3つのうち、真ん中の異所性左鎖骨下動脈」という可能性を胸部CTで確認していきましょう!
右大動脈弓を胸部CTで確認していこう!
まず、下行大動脈と大動脈弓と食道の位置関係を見ていきましょう!大動脈弓は「右」にあることがわかり、下降大動脈弓は食道と並走して、「右」に下行大動脈、「左」に食道という関係にある。まず、これで「Knight & Edwards の分類」の下段に絞ることができ、胸部X線(レントゲン)と同様所見になった。
次に問題となるのは、「左鎖骨下動脈(LS)」である。造影CTでキレイに描出することができるが、単純CTでもなんとかいけます。今回の症例は、右大動脈弓の遠位部で左にでる「左鎖骨下動脈」の起始部を見つけることができました。
そして、起始部が確認出来たので、これが「左鎖骨下動脈(LS)」であるか「左鎖骨下動脈(LS)が食道の背側を抜けるか」と確認することができれば、「異所性左鎖骨下動脈」タイプと判断できる。下の胸部CTを見ると、見事に「左鎖骨下動脈(LS)」が食道の背側を通って、左に流れていることがわかります。
さて、タイプ分けが出来てしまったことで、ここで達成感が生まれてしまうのですが、最後までしっかり読影補助をしていきましょう。
動脈瘤である「Kommerell憩室」を探そう!
左鎖骨下動脈は左7節間動脈に由来すると言われています。この鎖骨下動脈の分岐部に動脈憩室である「Kommerell憩室」ができることがあります。画像としては、動脈瘤と同じように探せば大丈夫です。径が3cm以下の場合は経過観察で、それより大きい場合は加療するとのことです。また、「Kommerell憩室」は破裂や解離の恐れがあるので、あった場合には造影CTを追加して評価することが大事になってきます!ときに動脈硬化症により嚥下障害を起こすこともあり、CTでのチェックが大切なのがわかります。
ということで、偶発的に見つかる「右大動脈弓」の読影について、書いてみました。胸部X線(レントゲン)である程度、タイプは絞れるのでポイントを押さえて、判別させるために胸部CTで最終判断をすれば、読影補助は最高な形で終わると思います。
- 大動脈弓の異常がある場合、Knight & Edwards の分類がつかえる
- 偶発的に見つかるものは「異所性左鎖骨下動脈」が多い
- Kommerell憩室の確認が必要
- Kommerell憩室は3cmがボーダーライン
- 場合によっては嚥下障害や気管の圧排が認められる