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椎骨脳底動脈解離を見逃さない:BPAS&Vessel Wall Imaging(VWI)

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新人技師

頭部MRAで椎骨動脈の描出不良に遭遇するんだけど、注意点について教えて!

ラジグラ

結構、左右両方でなくて悩まされることがあるけど、怖い疾患が隠れていることがあるからしっかり撮像していこう!

目次

椎骨脳底動脈解離の症例

椎骨動脈解離症例の頭部MRA
Case courtesy of Bruno Di Muzio, Radiopaedia.org, rID: 54478

日々の診療現場では、TOF(Time of Flight)法を用いた頭部MRAが一般的に撮像されていると思います。たとえば、上のMRA画像では左の椎骨動脈は良好に描出されていますが、右の椎骨脳底動脈は描出不良が見られます。このような場合、単に血管の低形成と決めつけてしまうと、重大な疾患が見逃される可能性があります。

診療放射線技師として、適切な追加撮像を行い、医師に正確な画像を提供することは非常に重要です。今回は、椎骨脳底動脈解離の症例を例に、どのようなステップで追加撮像を進めるべきかを具体的に説明していきます。

描出不良の原因を順序立てて考えていく

はじめに思考のフローチャートを提示しますね。一つずつこなして追加撮像などをして先生に画像提供をしていきましょう!

STEP
T2強調画像(T2WI)やMRA原画で探る

描出不良の原因をルーチン画像(T2強調画像やMRA原画)で確認する

STEP
BPASで椎骨動脈の走行を検出

血管が存在するかを確認する

STEP
Vessel Wall Imagingで椎骨動脈壁を評価

血管が存在しているなら、血管内腔および血管壁の確認をする


T2強調画像(T2WI)やMRA原画で探る

そもそも椎骨動脈(VA)が存在するのか?

まず考えられるのは、椎骨動脈の低形成または無形成です。無形成であれば、血管が描出されないのは理解しやすいですが、低形成の場合、一部の血管が存在しているにもかかわらず描出されないという矛盾が生じます。低形成は発生異常によって血管が非常に細い、または一部が欠損している状態を指します。

まず、血管が非常に細いということから考えていきましょう。この場合だと、TRA画像(横断面)の面内分解能の限界が挙げられます。これは機器的限界と捉えることもできますので、他のシーケンスで補っていかなくてはなりません。まずはこの判別をしていくために、TRA画像を確認してみましょう。

頭部MRI画像(T2WIおよびMRA)
Case courtesy of Bruno Di Muzio, Radiopaedia.org, rID: 54478


MRA原画では、かすかに血流が描出されていますが、MIP(Maximum Intensity Projection: 最大値投影画像)では確認できませんでした。MIP画像はノイズの影響を受けにくく、血管の連続性が良好に描出される一方で、信号強度が弱い血管は背景信号に溶け込み、見えなくなってしまうというデメリットがあります。

T2強調画像を確認したところ、脳底動脈より下方(足側)に若干のFlow voidを認める血管構造が描出されました。この所見は、血流がある可能性を示唆しています。

MIP画像で血流が描出されない理由は、TOF(Time of Flight)法の信号強度に関係しています。TOF法では、特定の流速を基にパラメーターが設定されています。このパラメーターに合致しない流速では、信号強度が低下して描出が不良になることがあります。TOF(Time of Flight)法では、以下の式を使って撮像範囲や血管の流速を考慮したパラメーター設定が行われます:

撮像範囲(例:1Slabの厚さ) =TR(繰り返し時間)× 描出する血管の流速

では、上記の式に実際の値を入れて考えてみましょう。

20mm(1slabの厚さ) = 20msec(TR) × 描出する血管の流速
描出する血管の流速 = 100cm/s

この計算により、TOF法で描出される目安の流速が100cm/sであることがわかります。頭部MRAでは、一般的にこの流速を目標として設定することが多く、流速が100cm/sに近い血管は信号強度が強く描出されます。一方で、血管が細い、または疾患により流速が遅い場合には、信号強度が低下して描出が不良になる可能性があります。

原画とT2強調画像(T2WI)から考えられることは以下のようになります。

右椎骨動脈は一部または全部がある可能性がある

一部であれば低形成といった認識となります、ここは追加撮像をして椎骨動脈が一部だけある低形成なのか全体があって椎骨動脈解離があって描出不良なのか確認していくということになります。

BPASで椎骨動脈の走行を検出

簡便に検査時間の大きな延長なく追加をしたいの本音であるので、こういうときは「BPAS:basiparallel anatomical scanning」を使いましょう。AJNR論文のリンクを掲載しておきます。

Surface appearance of the vertebrobasilar artery revealed on basiparallel anatomic scanning (BPAS)-MR imaging: its role for brain MR examination:Morio Nagahata PMID:16286392 AJNR論文 及び 日本語版

BPASは、斜台と平行な冠状断で撮像される、inverted heavily T2-weighted imaging を用いた特殊な撮像法です。この方法では、液体を高信号、それ以外を低信号にする2値化コントラストを用いて、血管の外観のみを描出します。

BPASの特徴
  • 血管の外観確認に特化しており、内腔の評価は難しい。
  • 血管の存在有無を確認する際に適しています。
BPASの撮像位置と描出される画像
BPAS撮像位置と描出される画像(Morio Nagahata PMID:16286392より抜粋)

上の画像ははじめの症例とは別にはなりますが、矢印部分のように右椎骨動脈が低形成ではないことが示された場合、MRAとBPAS画像と所見の解離(MRAでは右椎骨動脈の描出不良・BPASでは右椎骨動脈あり)になりますので、右椎骨動脈はなにかしら疾患があることが指し示されます。考えられる疾患の代表例は「椎骨動脈解離」です。このように、BPASはMRAと補完的に使用することで、血管評価の信頼性を高めることができます。

Vessel Wall Imagingで椎骨動脈壁を評価

脂肪抑制T1強調画像(T1WI)Black Blood(Vessel wall image)
Case courtesy of Lam Van Le, Radiopaedia.org, rID: 197126

最後になります!血管があるのに描出されないということは「椎骨動脈解離」がある可能性があります。血流はMRAで、血管外観にBPASで確認をしたのであとは血管内腔評価と血管壁評価ということになります。この画像はVessel Wall Imaging(VWI)と言われています。仕組みは簡単で脂肪抑制T1強調画像にBlack Bloodを付加したものになります。主な用途は以下のようになります。一部造影剤使用についても記述していますので参考にしてください。

  • 血管解離の評価
    • 内膜フラップ偽腔の形成を明確に描出
  • 動脈硬化の評価
    • プラーク形成プラーク内出血、石灰化などの詳細な評価
  • 血管炎症性疾患
    • 動脈壁の炎症(例:巨細胞性動脈炎、ベーチェット病)による壁肥厚や造影効果の確認。
    • 血管壁の増強(Gd造影剤使用)が炎症の活動性を示唆。
  • 動脈瘤の破綻確認
    • 血管壁の増強(Gd造影剤使用)があることで破裂しているもしくは破裂リスクが高いと推定される。

上記のVessel Wall Imaging(VWI)で高信号になっていれば、出血などが想定できます。それが血管壁なのかプラーク内出血なのかしっかり判断していきましょう!

このようにBPASだけでは、外観の評価しかできませんが、VWIでは内腔や血管壁について評価できます。つまり、2つのシーケンスを持ってMRAで描出できなかった理由を探すことが可能となります。ぜひ、MRAで描出不良があった場合には追加撮像をしていきましょう!

椎骨脳底動脈解離を見逃さないのまとめ

頭部MRAで椎骨動脈(VA)の描出不良や左右差があった際には、積極的にBPASVessel Wall Imagimg(VWI)を使って、血管の外観評価や血管内腔・血管壁を評価することを説明しました!

そして、一回でもBPASを撮っておけば存在診断は完了しているので次回からはVessel Wall Imagingだけ追加し、血管内腔および血管壁の評価を続ければいいということになります。

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